翡翠(ヒスイ)とは


 翡翠は約5000年前の縄文時代中期に糸魚川(新潟県)で縄文人が加工を始めました。
世界最古のヒスイと人間の関わり(ヒスイ文化)です。 翡翠は非常に壊れにくいことから先史時代には石斧等の材料でした。 古来より不老長寿など霊力・生命の象徴として珍重され、糸魚川で勾玉や大珠などに加工されたものが全国の遺跡から出土しています。 弥生時代・古墳時代を通じてヒスイは非常に珍重されましたが、奈良時代以降は全く利用されなくなってしまいました。

その後、昭和13年(1938)に糸魚川で翡翠が発見されるまで、糸魚川で翡翠が採れることが忘れ去られていました。 また翡翠はヒスイ輝石からできているというのが定説でしたが、最近の研究で緑色の部分にはオンファス輝石という鉱物があることがわかってきました。 鉱物学的には、白い翡翠が純粋な翡翠とされています。


翡翠の成因



 翡翠が産出されるところは全て造山帯であり、翡翠は主に蛇紋岩中に存在します。 蛇紋岩は地殻の下のマントルに多く含まれる橄欖岩が水を含んで変質したもので、プレート境界付近で起こる広域変成作用の結果としてできる岩石です。

一方のプレートが他のプレートの下に潜り込むことにより広域変成作用が起こり、同時に激しい断層活動で地上に揉みだされることにより蛇紋岩は地表付近に出現します。 その途中でアルビタイト(曹長岩)や変斑糲岩、変玄武岩を取り込むことがあり、それらが高い圧力のもとでナトリウムやカリウムを含んだ溶液と反応して翡翠に変化したと考えられています。


翡翠の色



白 : ヒスイ輝石(純粋に近い組成NaAlSi₂O₆)
緑 : オンファス輝石、ヒスイ輝石+オンファス輝石
紫 : チタンを含むヒスイ輝石
青 : チタンを含むオンファス輝石
黒 : 石墨を含むヒスイ輝石
翡翠の色

翡翠の名前の由来



 翡翠の名前の由来はカワセミです。 漢字で「翡」は赤色、「翠」は緑色を意味し、カワセミの「翡」はオス、「翠」はメスです。


翡翠と奴奈川姫伝説



 翡翠の産地 糸魚川がある、越の国にいた、美しく賢い、と評判の高かった奴奈川姫(ヌナガワヒメ)のために歌われた歌です。 この歌は万葉集巻13で歌われ、こう解釈されています。 『ぬな河(現在の糸魚川姫川)の底にあるという不老長寿のうるわしい玉(翡翠)。探し求める玉(翡翠)。川底から見つけて得られる玉(翡翠)なのだろうか。手に入れて君に贈りたい。玉(翡翠)のような君が年をとって老いるのが、ほんとうに惜しい。』

 奴奈川姫は神代の時代、糸魚川周辺と特産品である祭祀具「翡翠」を支配していた巫女王です。 姫の賢く美しいとの噂を聞いて、出雲の国 大国主命(出雲大社の祭神)がはるばる当地方に訪れ、求婚を申し込んだと言います。 姫は大国主命に歌を贈答し一日後に求婚を受け入れ、結婚したと伝えられています。二人の間には諏訪大社の神「建御名方命」が生まれたとされています。 神話が物語るように大国主命を奉る出雲大社本殿の裏の真名井遺跡からは、日本でも最高の品質と思われる翡翠の勾玉が出土し、大社に保管されています。

国石『ひすい』


 2016年9月24日、日本鉱物科学会より日本の石すなわち国石に『翡翠』が選定されました。日本で広く知られて、国内でも産する美しい石であり、鉱物科学のみならず様々な分野でも重要性を持つものとしてヒスイが選ばれました。

国石にふさわしい翡翠の特徴
日本の宝石のナンバーワン
世界で最も古いヒスイ文化
日本全域と朝鮮半島に広まった宝石
全国各地の博物館で見学できる宝石
長期間利用が途絶えるなど謎の多い宝石
法律で保護され、将来にわたって野外で観察できる宝石

翡翠産地について


小滝川ヒスイ峡(小滝川硬玉産地)
昭和31年に国の天然記念物に指定された小滝川硬玉産地は、姫川の支流、小滝川に明星山の大岩壁が落ち込んだ川原一帯を指し、ヒスイのふるさと糸魚川を象徴する日本随一のヒスイの産地、小滝川ヒスイ峡の名で多くの人に親しまれています。この区域では岩石の採取はできませんが、ここから流れ出たヒスイは姫川を下り、市内の海岸に打ち上げられます。このことからこの付近の海岸はヒスイ海岸とも呼ばれ、愛好者がヒスイを求め、探し歩く姿が見られます。
小滝川ヒスイ峡

橋立ヒスイ峡(青海川硬玉産地)
昭和32年に国の天然記念物に指定された青海川硬玉産地は、青海川の上流黒姫山の麓にあります。 青海川上流橋立地区に近い河床には蛇紋岩の大露頭がみられ、これに接してヒスイ原石が点在しています。 残念ながらヒスイ峡では原石の盗難が相次いだため、親不知ピアパークにある翡翠ふるさと館に貴重な原石を移設保管しており、展示されている102トンの原石は屋内展示物としては世界最大です。移設した原石も元々ヒスイ峡にあったため、現在は青海川の硬玉産地及び硬玉岩塊として国の天然記念物に指定されています。
橋立ヒスイ峡